これは来るっきゃない。 [山土山]
気が付くと、俺は血まみれだった。
ここ数日の記憶が無い。
「痛て…………」
何で、こんな。
「そんなに暇なら副長がやってくださいよ」
ぼやいた口は判っているんだ。
副長が毎日ここへ足を運ぶ理由。
この人がそんなに暇じゃないことは分かりきっている。
「あ、副長、あれ見てくださいよ」
「何だ」
窓に寄せた顔を横から見る。
やっぱり綺麗だ。
「どこだ、山崎?」
「ほらあれですよ、あれ」
「あれじゃ分かんねって……………ッ」
鬼の副長ともあろう人が無防備に頬を空けるから。
顔を少し離すと、真正面に見据えられて、そのまま口付けた。
「っと、いけね」
「何だ」
土方が物足りない顔を寄せてくる。
それを拒んだ。
「お前から誘ったくせに」
「監察中にはしないとあんぱんの神様に誓っているんですよ」
そういうことには人一倍理解のあるひとだから、
「ったく、仕方ねえ」
と、素直に離れた。
「俺ァ帰るぜ、何かあったら連絡しろ」
「了解です」
去る背がやけに淋しそうで、謝った。
「すみません。」
「謝るこたねーよ、立派な心構えだ」
ただし、
「次の休みは憶えてろよ」
不敵に笑って、消えた。
本当に、
「…………かっこいいな」
次の日、あのひとは来なかった。
昨日みたいなことを起こさないためと気を遣ってくれたんだろう。
俺は窓に向き直る。
監察中に物思いに耽るなどもっての他だ。
あのひとのことなんて、考えるだけで日が暮れちまうわァ。
そうやって今日も俺はあんぱんを喰らう。
あんぱんが好きな訳じゃない、
副長が好きだから。
「…そうか……………」
あのあとあんぱんスパイラルに巻き込まれて。
でも何で体中ボロボロなんだ?
何で。
俺は泣いてんだ?
痛みで体が起きないから、首だけ回して辺りを窺うとあんぱんの海。
他に変わったことは特に…………
「………ん…?」
あんこが無惨に床に撥ねている。
これは………………?
あんぱんを上からたたきつけたみたいな。
たたきつけ………………
たたき………………
「ああああああ!!!!!」
痛てて。
俺は、副長に。
副長が逢いに来て、
「すまねぇな、忙しくてよ」
なんて言うから、
嬉しいのを抑えきれなかったんだ。
監察中は、仕事に専念すべし。
ふと、頭によぎった。
駄目なんだ、副長のことは。
考えてはいけない。
あんぱん。
こういうときに役に立つだろう?
そうだ、いくらでも在る。
手にとって、そう。
構えて。
「パーンッ!!…………ってなる訳ねーだろォォォォ!!!」
あんぱんを思い切り地面にたたきつける。
「…………………」
こんな風に副長にスパーキングして。
怒っただろうな。
こんなにボコボコにして。
もしかして俺のこと嫌いになったかな。
そんなことは無い、と打ち消したくても、
不安ばかりが募って、息苦しい。
ここにあのひとの影が見えないのも、だからかな。
急に悲しくなった。
「ごめんなさい、俺、おれ…………!!!」
監察中は、仕事に専念すべし。
標的から一瞬足りとも目を離すべからず。
大切な人のためなら、破ってもいいのかな。
立ち上がった。
走り出す。
傷口が開いた。
血が出る。
痛い。
それでも気にしていられなかった。
傷も、任務も。
屯所に行って、謝ろう。
仕事しなかったこと、どんなに殴られてもいい。
玄関に行って、立ち止まる。
真っ白な包帯と大量の絆創膏。
その他諸々の薬。
紙切れが、一枚。
『早く仕事しろ。』
窓に向かい、座った。
今日も俺は、あんぱんを喰らう。
「やってるよ、山崎冬のパン祭り。」
「終わったか」
「はい」
あんこまみれの2人が連行されたのを見届ける。
「帰るぞ」
軽く手を置かれた肩は震えた。
「お前はよくやったよ、」
帰るぞ。
歩く背が止まった。
「そうだ、何か食いてえもんあるか」
「え?」
「おごってやるよ、一緒に行こうぜ」
いつまでも。
あなたの背を。
うおおおおお駄文きたー。
山土山はこれ、あんぱん読んだらくるっきゃねーだろおおおおお。
包帯は土方さんが巻いてくれたってのもいいなーと思ったんですが思っただけになっちゃいましたねー
土山より山土のが好きなんですが書いてみたら土山に……(泣)
わわっコメントありがとう御座います!!
上手だなんてっ////嬉しすぎて氏にます←
私の方こそ、こんな素敵なお話読ませていただきありがとう御座いました☆
by 葉桜 逃真 (2012-03-24 13:57)